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賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律

弁護士荒内 智美

本稿では、令和2年6月12日に制定された賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)の概要をご紹介いたします。

1.制定の背景

我が国の生活基盤として、賃貸住宅の重要性は増大する一方、オーナーの高齢化、兼業化の進展、管理内容の高度化等の事情により管理業者に物件の管理を委託するオーナーが増加しており、またかかる管理をサブリース方式による場合も多く見られます。
このように管理業者の介在機会が増える中、トラブルもまた増大していました。
これを受け、賃貸住宅管理業務につき、登録制度を導入の上管理業務の適正な運営を確保し、またサブリース業者につき、マスターリース契約の適正化のための措置等を講じることを目的として、本法が制定されました。

2.賃貸住宅管理業者に係る登録制度の創設

(1)賃貸住宅管理業の登録

従来は大臣告示に基づく賃貸住宅管理業者登録制度(任意)がありましたが、本制定により登録制度が義務化されました。
(ⅰ)賃貸住宅の維持保全又は(ⅱ)維持保全と併せて行う家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理(「管理業務」)を行う者の、国交省大臣への登録が義務付けられ、5年毎の更新が必要となっています(法第3条)。もっとも、小規模な管理業者(管理戸数200戸未満)の登録は任意となっています。

(2)賃貸住宅管理業者の義務

賃貸住宅管理業者については、主に以下の義務が定められることとなりました。

  • 業務管理者の配置(法第12条)
    営業所又は事務所ごとに、業務管理者(実務経験その他の国土交通省令で定める要件を備える者)の選任が必要。選任なしに管理受託契約を締結することは不可。
  • 管理受託契約締結前の重要事項の説明(法第13条)
    管理受託契約の内容及びその履行に関する事項を事前に書面交付(電磁的方法による代替も可能)。
  • 管理受託締結時の書面の交付(法第14条)
    契約締結時に遅滞なく、所定事項(管理業務の対象となる賃貸住宅、管理業務の実施方法/契約期間に関する事項、報酬に関する事項、更新又は解除に関する定め、及びその他国土交通省令で定める事項)を記載した書面を交付(電磁的方法による代替も可能)。
  • 管理業務の全部を再委託することの禁止(法第15条)
  • 固有財産と管理業務上受領する金銭の分別管理(法第16条)
  • 委託者への定期報告(法第20条)

3.サブリース業者とオーナーとの間の契約(マスターリース契約)の適正化に係る措置

サブリース業者については、主に以下の義務が定められることとなりました。

(1)不当な勧誘行為の禁止(法第29条)

マスターリース契約(特定賃貸借契約)の勧誘又はその解除を妨げるため、オーナーの判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて、故意に事実を告げず又は不実のことを告げ、またオーナーの保護に欠ける行為を行うこと等が禁止されました。

【具体例】

  • 賃料減額リスクがあることや、サブリース業者からの解除可能性があること、サブリース業者に有利な条項(家賃見直し協議で合意できなければ契約終了する条項等)を告げない
  • 断定的に家賃保証ができると告げる
  • 近傍同種の家賃との比較や原状回復費用の負担者につき不実のことを告げる
  • 威迫的な行為

(2)誇大広告等の禁止(法第28条)

サブリース業者又は勧誘者が、マスターリース契約の条件について広告する際、家賃、維持保全の方法、解除に関する事項、その他の国土交通省令で定める事項につき、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると誤認されるような表示を行うことが禁止されています。本規定は勧誘者も対象となることに留意が必要です。

(3)マスターリース契約締結前の重要事項の説明(法第30条)

説明主体に法律上の制限はありませんが、専門的知識及び経験を有する者によることが望ましいとされています。また、電磁的方法による提供も可能です。本法のサブリースに関する規定に関し、国土交通省によりガイドラインが策定されおり、同ガイドライン末尾に重要事項説明書のサンプルが用意されていますので、ご参照下さい。
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00004.html

(4)マスターリース契約締結時の書面交付(法第31条)

契約締結時に所定事項(対象物件、家賃、維持保全の実施方法、契約期間、転借人の資格等、更新・解除に関する定め、その他国土交通省令で定める事項)が記載された書面を交付する必要があります(電磁的方法によることも可能)。もっとも、契約書に各記載がある場合には、当該契約書をもって代えることができます。

(5)書類の閲覧(法第32条)

サブリース業者選定の際の判断に資するよう、サブリース業者には、業務及び財産状況を記載した書類を営業所又は事務所に備え置き、契約の相手方(なろうとする者も含む)の閲覧に供することが義務付けられました。

サブリース業者に関する規定は令和2年12月15日から既に施行が開始しています。詳細な運用については上記リンクのガイドラインをご覧ください。また、賃貸住宅管理業にかかる登録制度も、令和3年6月からの施行が予定され、整備が進められているところです。当事務所では、新法への対応や賃貸物件のトラブルについてのご相談も承っております。どうぞお気軽にお問合せください。

≪弁護士 荒内智美≫

参考リンク
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk3_000001_00004.html